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東京高等裁判所 平成元年(ネ)4404号 判決

控訴人

清水葉末

外一三名

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

松田英一郎

被控訴人

井出好江

鈴木富子

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士

石川和市

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件を静岡地方裁判所に差し戻す。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨(控訴人ら)

1  原判決を取り消す。

2  原判決添付物件目録一ないし一七記載の土地(以下「本件一ないし一七の土地」という。)について競売を命じ、その売得金を原判決添付分配表の割合で分割する。

3  被控訴人らは控訴人らに対し、原判決添付物件目録一八ないし二一記載の土地の鈴木三次郎の持分(一八及び一九について各共有持分一〇〇分の七〇、二〇及び二一について各共有持分三分の一、以下「本件一八ないし二一の土地」という。)について、原判決添付分配表の割合で持分権移転登記手続をせよ。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却

第二  当事者の主張

(被控訴人らの本案前の申立て)

原判決二枚目表一行目から五行目までを引用する。

(当事者双方の本案についての主張)

原判決二枚目表一一行目から同八枚目表五行目までを引用する。ただし、次のとおり訂正する。

1  原判決二枚目裏一行目の「土地」の次に、「(本件一ないし二一の土地)」を加える。

2  同三枚目裏四行目の末尾に、「仮に右の明示の遺産分割協議が成立していなかったとしても、右の事情の下では、右五名の間で鈴木明が死亡した昭和三一年一一月五日ころまでに、本件土地を法定相続分の割合で遺産分割する旨の黙示の合意が成立したというべきである。」を加える。

3  同五枚目裏一一行目の次に次を加える。

「9 本件一八ないし二一の土地には、鈴木三次郎名義の控訴趣旨3のとおりの持分権登記がされている。」

4  同六枚目表一行目の「9」を削除する。

5  同七枚目表九行目の次に、「99は認める。」を加える。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一本案前の主張について。

原告が、その訴えにおいて、どのように訴訟物を定めるかは、その自由であり、定められた訴訟物によって管轄裁判所も定まってくるのである。訴訟物が通常裁判所の管轄に属すべきものである場合は、それについて同裁判所に提起された訴えが適法であるのは当然である。

本件において、原告が定めた訴訟物は、民法二四九条以下所定の共有権(以下「財産法上の共有権」という。)に基づく同法二五八条による共有物分割請求権である。その管轄は通常裁判所にある。そして、右の権利の請求原因は財産法上の共有権であり、それが争われるときは、その取得原因を主張すべきである。財産法上の共有権の取得原因としては、財産法上の共有権の売買、贈与等があるが、相続人が数人ある場合の同法八九八条によって共有(以下「身分法上の共有権」という。)となった相続財産についての共有相続人の協議による分割又は家庭裁判所の審判による分割も、財産法上の共有権取得原因の一と解すべきである。

同じく共有とはいっても、判例上、身分法上の共有権と財産法上の共有権とは異なるものであり、前者の共有権は、相続によって直ちに生ずるが、未だ後者の共有権ではなく、その後の協議又は審判によってはじめて後者の共有権に転化するのである。従って、共有物分割の訴えの請求原因として、身分法上の共有権の発生原因のみを主張して、協議又は審判を主張しない場合は、主張自体失当として棄却すべきであり、また主張しても立証できないときは、例えば、取得原因の一である売買が立証できないときと同じように、立証不十分として棄却すべきである。協議又は審判が立証できなかったからといって、そのために訴訟物が判決による遺産分割請求権に変化することになるわけではない。

以上に説示したとおり、原判決のように、立証不十分の場合に訴えを不適法として却下するのは、誤りであるといわなければならない。もっとも、請求の趣旨が、共有物分割と題していても、実は判決により身分法上の共有権から財産法上の共有権への分割を求め、その上で共有物の分割を求める趣旨と解すべき場合は、通常裁判所は、判決による財産法上の共有権への分割をする権限を有しないのであるから、不適法として却下すべきことになる。最高裁昭和五九年オ第五六九号昭和六二年九月四日第三小法廷判決(裁判集民事第一五一号六四五頁)は、判旨が必ずしも明らかでないが、請求の趣旨を右のように解すべき場合として却下したものと解される。しかし、本件は、右のように解すべき場合ではなく、控訴人らは民法二五八条の共有物分割請求権を訴訟物として定立したものと解すべきである。また、たとえ右判旨が原判決と同旨であるとしても、本件においては、次の請求原因について判示するとおり、本件土地について共同相続人間に遺産分割についての協議が調ったと認められ、その結果、本件土地は財産法上の共有の状態にあるというべきであるから、いずれにしても民法二五八条に基づく共有物分割を求める本件訴えは適法であるというべきである。

第二請求原因について。

一原判決八枚目裏一行目から同一五枚目裏八行目までを引用する。ただし、次のとおり訂正する。

1  原判決八枚目裏二行目の「成立に」から五行目の「よれば、」までを、「また、本件一八ないし二一の土地については鈴木三次郎名義の持分登記がされたままになっていることについて当事者間に争いがないので」に改める。

2  同八枚目裏六行目の「記載の持分」を「の土地」に改める。

3  同九枚目表一行目の「認める」の次に「甲第三一、」を、二行目の「4(二)、」の次に「5(二)、」を加える。

4  同九枚目表四行目の「が、」から七行目の「ない」までを削除する。

5  同九枚目表八行目の「ところで、」から同九枚目裏七行目の末尾までを削除する。

6  同一〇枚目表六行目の「二、」の次に「第六三号証の一、二、」を加える。

7  同一〇枚目表末行目の「第六三号証の一、二、」を削除する。

8  同一二枚目裏一一行目の「のあったとの」を「が明示的にされた」に改める。

9  同一四枚目裏一〇行目の「(」から同一五枚目表七行目の「)」までを削除する。

10  同一五枚目表八行目の「4(二)、」の次に「5(二)、」を加える。

二以上の事実、特に、昭和二七年四月二六日に本件一ないし一七の土地について、鈴木勲の単独申請によってなされた本件相続登記は法定相続分によるものであること、そのことを被控訴人井出好江が鈴木勲から聞かされた際にも、自ら何らかの意見を述べたり、また他の相続人に話し、そこから問題化したりすることもなかったこと、本件土地以外の土地ではあるが、本件土地と同時期に右相続人らの法定相続分による共有登記がされていた土地が第三者に売却された際にも、本件土地を含め、相続分が相続人間で問題とされたことはなかったこと、鈴木三次郎の遺産の分割について共同相続人間で紛争が生じ始めたのは、昭和六三年に鈴木勲が死亡して鈴木三次郎の相続人が被控訴人井出好江だけになった後であることなどからみて、本件土地については、鈴木明が死亡した昭和三一年一一月五日ころまでに、前記五名の相続人(大久保志つ、鈴木一、鈴木明、鈴木勲及び被控訴人井出好江)の間で、法定相続分の割合で遺産を分割する趣旨の合意が黙示的に成立しており、遺産分割の協議が調っていたものと認めるのが相当である。

第三結論

以上のとおり、請求原因事実である本件土地についての遺産分割協議の成立が認められるので、本件請求の当否を判断するためには、更に抗弁についても判断する必要がある。しかし、原判決は、右遺産分割協議の有無については判断したが、本件訴えを不適法として却下したので、原審では抗弁の当否について審理がされていないことになる。抗弁について当審が審理判断することは、当事者の審級の利益を奪うものとして許されない。したがって抗弁について審理を尽くすために、本件を原審に差し戻すべきである。

よって、原判決を取り消し、本件を静岡地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官武藤春光 裁判官伊藤博 裁判官池田亮一)

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